東京国際映画祭 レヴュー その3
「九月の風」(台湾、2008年)
舞台は1996年、台湾。
人々がまだポケベルを使って連絡を取り合う時代。
台湾の球界ではイカサマ疑惑のスキャンダルが渦巻いています。
この時代に高校生を過ごした7人の主人公たちをめぐる、青春ドラマです。どこかで見たような懐かしい感覚を感じながらも、現在を生きる僕たちが忘れてしまいがちな、リアルで親密感に満ちた友人関係がハッとさせます。
友人至上主義とも言える、外圧や制度に対して7人の抵抗力を発揮する様子は、まるで「僕らの7日間戦争」や「七人の侍」に似たような、強い結束を感じさせます。
脚本の制度は高いです。凡庸なようでそうではない。日本のそこいらにあるドラマ系映画のようなベタな展開を悲劇やタレント性でどうにかやりくりする小賢しいものでは全くありません。
当時の社会に満ちていたスキャンダルなどをうまく脚本に取り入れながら、さらにその要素を持ちつつ最高に爽やかなエンディングにもっていってくれるバランス感覚は、監督の類い希なる才能だと感じます。ウェス・アンダーソンのような暖かな、飾らないドラマ性が好感触です。
それにしても、この映画で最も賞賛に値するのは、俳優たちでしょう。19歳〜20歳をターゲットにオーディションがあったそうですが、神々しい香港の陰に隠れていた台湾に、こんなにも実力派の若いスターの卵が眠っていたとは。驚くばかりです。特に以下の3人は要チェックです。
鳳小岳(Rhydian Vaughan、ライディアン・ヴォーン)
張捷 (チャン・チェ)
王柏傑(ワン・ボージエ)
私も映像業界にいますが、もしもアジアとのプロジェクトを動かすとしたら、日本の俳優ではなく彼らを選びます。いまのうちに英語を学ばせて、香港からいずれはハリウッド級かもしれません。